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プリズムタイプHMDに於ける必要画角の考察とその実現方法【後編】

はじめに


前編では、遠隔作業支援・情報提供を主用途とし屋外使用も可能なHMDの光学的構成・特徴を紹介しました。また、弊社初号機のHMD光学における基本コンセプト、及びそれらを維持しつつ画角拡大を目指した背景、適切な画角の仕様決め、予想されるデメリットと維持されるべき性能・機能について述べました。

後編では画角拡大の実現手段、結果性能について解説します。



技術課題と解決方法

1.画角の拡大

弊社の従来光学(図10a)からの画角拡大手段として、パネルサイズの大型化(図10b)、接眼レンズの短焦点化(図10c)が有ります。前者はコスト・サイズの関係で最初から排除されており、後者については短焦点化に伴う空間の狭小化が問題となります。接眼部と表示部の間隔が狭くなる為、その間隙から見える背景が十分でなくなってしまうという問題です。又、20%程度の画角拡大を目指した初期試作でも収差による解像度の低下が著しいという結果が既に得られていました。そこで表示部側出射窓前に追加のレンズを設置し、組レンズでの短焦点化を実現しました(図10d)。組レンズの間隔を広げる事を含んだ設計により接眼部と表示部の間隔も確保できました。


図10a  横方向画角10度の最初の構成

図10a  横方向画角10度の最初の構成


図10b 液晶パネルの大型化による画角拡大を目論んだ場合。表示部の体積が3倍以上になる上、コスト的に選択不可。

図10b 液晶パネルの大型化による画角拡大を目論んだ場合。表示部の体積が3倍以上になる上、コスト的に選択不可。

図10c 接眼レンズの短焦点化による画角拡大を目論んだ場合。コストの問題は小さいが、表示部と接眼部の間隔が狭小になり、レンズの収差も大きくなる。

図10c 接眼レンズの短焦点化による画角拡大を目論んだ場合。コストの問題は小さいが、表示部と接眼部の間隔が狭小になり、レンズの収差も大きくなる。

図10d 表示部直後にレンズを追加して組レンズとした場合。表示部と接眼部の隙間を保ったまま短焦点化が実現できた。パワーを分散できるので収差も単レンズの場合に比べれば抑えられる。

図10d 表示部直後にレンズを追加して組レンズとした場合。表示部と接眼部の隙間を保ったまま短焦点化が実現できた。パワーを分散できるので収差も単レンズの場合に比べれば抑えられる。


2. 接眼部と眼球の間隔の確保

50%程度の画角拡大は実現できたものの画面全体が見える範囲は接眼出射部近傍に限定されてしまい、出射面から20mm離れた位置では画面の両端が欠けた状態となりました。図11のような簡単なモデルをベースに図12a,12b,12cのようなシミュレーションを行いました。

これにより、短焦点化によって接眼部出射後の光束が狭くなる事と画角増大に伴い左右両端からの光線の交差部が接眼部に近づく事が理由だと判りました。さらに図12cのように液晶パネル(特に左右両端)から出射する光の発散角度を広げると解決する事が判明しました。既存の光学系は必要最小限のサイズを目指していたので、ここの発散角をほぼ±3度とし、その制約の為に開口が設けられていました。開口を拡大した場合にどこまで発散角が広げられるかが課題解決の鍵となりました。

図11 シミュレーション用のモデル 画面の左右両端を表示する光線(図中の赤と青)がどちらも眼球に達していれば画面全体が見える事になる。この図では各点からの光線は1本で示されているが、実際には広がりを持つ。


図11 シミュレーション用のモデル

画面の左右両端を表示する光線(図中の赤と青)がどちらも眼球に達していれば画面全体が見える事になる。この図では各点からの光線は1本で示されているが、実際には広がりを持つ。


図12a 横方向画角10度の時のシミュレーション。接眼部出射面から20mm離れた眼球の瞳位置に画面左右両端からの光線が届いており画面全体が見える事が判る。

図12a 横方向画角10度の時のシミュレーション。接眼部出射面から20mm離れた眼球の瞳位置に画面左右両端からの光線が届いており画面全体が見える事が判る。


図12b レンズを追加して横方向画角15度にした場合のシミュレーション。接眼部出射面から20mm離れた眼球の瞳位置では画面左右両端のどちらの光線も届いておらず、画面両端共に見えない。レンズ短焦点化により接眼部出射時の光束が細くなっている事と交差する角度が大きくなっている事が原因。 眼球を左右に動かせば該当する方の画面端を見る事ができる。又、接眼部出射面から10mmの位置であれば画面全体が見る事が可能。

図12b レンズを追加して横方向画角15度にした場合のシミュレーション。接眼部出射面から20mm離れた眼球の瞳位置では画面左右両端のどちらの光線も届いておらず、画面両端共に見えない。レンズ短焦点化により接眼部出射時の光束が細くなっている事と交差する角度が大きくなっている事が原因。

眼球を左右に動かせば該当する方の画面端を見る事ができる。又、接眼部出射面から10mmの位置であれば画面全体が見る事が可能。


図12c パネル左右端の出射光発散角度を大きくすれば20mmの位置でも両端が見える事が推測できました。レンズの有効系も広がる為に収差の増大も予想されました。

図12c パネル左右端の出射光発散角度を大きくすれば20mmの位置でも両端が見える事が推測できました。レンズの有効系も広がる為に収差の増大も予想されました。


画角拡大の実現性を探るべく、開口の有無による発散角の違いを測定しました。図13a, 13bはその測定の様子、図14a, 14bはその結果です。ここで測定された角度範囲により画角15°、左右の余裕量2mmの条件でも接眼レンズ・眼球間隔を20mm確保できる事が推定できました。


図13a  パネルからの出射光束角度範囲測定のようす。HMD,カメラ共にレンズ系を外し、光をカメラのイメージャに直接照射し、光束の範囲を測定した。パネルの一部のみを緑で発光させ、照射された範囲の大きさと距離から発散角度を推定した。

図13a  パネルからの出射光束角度範囲測定のようす。HMD,カメラ共にレンズ系を外し、光をカメラのイメージャに直接照射し、光束の範囲を測定した。パネルの一部のみを緑で発光させ、照射された範囲の大きさと距離から発散角度を推定した。


図13b  カメラへ照射する部分の拡大写真。HMDの接眼部、追加レンズ等を外してパネルからの光線を直接導入。

図13b  カメラへ照射する部分の拡大写真。HMDの接眼部、追加レンズ等を外してパネルからの光線を直接導入。


図14a  最初の開口のままでの撮影結果。パネル右端からの出射光は横方向に約5度の範囲に広がっている事が判った。

図14a  最初の開口のままでの撮影結果。パネル右端からの出射光は横方向に約5度の範囲に広がっている事が判った。

図14b  開口を拡大した状態での撮影結果。パネル右端からの出射光は横方向に約8度の範囲に拡大できる事が判った。

図14b  開口を拡大した状態での撮影結果。パネル右端からの出射光は横方向に約8度の範囲に拡大できる事が判った。


3. 解像度

開口を広げた結果、画像全体が見えるという観点では目的が達成されました。しかし組レンズとは言え2枚の平凸レンズでは収差が抑えられず、左右両端の解像度は不足していました。図17はその時の結果です。図15のような2画素幅の縦線、横線、2x2画素の点からなるパターンを作成し表示しました。測定には図16のように撮影用カメラのレンズを眼球に見立てて、接眼部前にセットして撮影しました。眼球と条件をそろえる為撮影用レンズの前、接眼部出射面から20mmの位置に瞳に相当する絞りを追加しています。

画面中心、下端中央は2画素幅で解像していますが、右端では特に横方向の解像度の低下が著しくなっています。図18は光線追跡によるこのレンズ系でのスポットダイアグラムです。下端中央、中段右端、右下角の3点を表示しています。グラフの目盛りは視角で1.88分でこれは2画素の幅に相当します。下端中央はまとまっていますが、右端の2点はいずれも広がりを持っています。これを改善すべく接眼部のレンズを非球面とする事にしました。図19は非球面レンズを用いた時のスポットダイアグラムです。右下角でも平凸2枚組の下端中央と同等になっており2画素幅の線が解像できると判断しました。

図15  解像度測定に使ったパターン。黒枠外のように2画素幅の縦線、横線、 2x2画素の点で構成されている。

図15  解像度測定に使ったパターン。黒枠外のように2画素幅の縦線、横線、2x2画素の点で構成されている。

図16  解像度測定のようす。HDM前にカメラを置き、投影レンズ前に瞳に相当する絞りを設置。 絞り径はφ2mmとしています。明るい環境下での人間の瞳径に合わせています。接眼部出射面からその絞り迄は20mmとしています。

図16  解像度測定のようす。HDM前にカメラを置き、投影レンズ前に瞳に相当する絞りを設置。絞り径はφ2mmとしています。明るい環境下での人間の瞳径に合わせています。接眼部出射面からその絞り迄は20mmとしています。

図17  通常の平凸レンズ2枚組での解像度の様子。中心、下端中央では2画素の分解能を持っていた。右端について縦方向はギリギリで、横方向の解像度の崩れが大きい。

図17  通常の平凸レンズ2枚組での解像度の様子。中心、下端中央では2画素の分解能を持っていた。右端について縦方向はギリギリで、横方向の解像度の崩れが大きい。

図18  平凸2枚組の時のスポットダイグラム 図中の1目盛りが2画素幅の視角となる。 下端中央は良好。右端は上下方向(メリジオナル)より左右方向(サジタル)の収差が大きい。

図18  平凸2枚組の時のスポットダイグラム。図中の1目盛りが2画素幅の視角となる。下端中央は良好。右端は上下方向(メリジオナル)より左右方向(サジタル)の収差が大きい。


図19  接眼部のレンズのみ非球面とした場合のスポットダイアグラム。中段右端、右下角も2画素の分解能を持つ事が期待できる。

4. 接眼部周辺の処理

接眼部周辺による背景の遮蔽を最小限とする為、図20のように透明基板に固定する方式にしました。

図20  接眼部周辺を素通しにする為。透明基板に接眼部を貼り付けた。

図20  接眼部周辺を素通しにする為。透明基板に接眼部を貼り付けた。


結果

主な項目の評価結果は以下の通りです。

1. 画角

2m先で幅544mmとなる画像が得られました。画角で15.5度です。図21は測定の様子で、図22は実測した画像です。ここでは撮影レンズ前の追加絞りはφ5mmとしています。これは「背景と画像周辺を重ねて」撮影する為です。接眼部の高さより大きい径の絞りを用いる事で画像の上下端付近については同じ位置に相当する背景と同時に撮像素子上に結像させる事ができます。

図21 画角測定時の様子と瞳相当の絞りの状態。1m先に方眼紙をおいて、それと画像を重ね合わせてサイズを測定しました、。絞りは背景と画像端を重ねる為にφ5mmとしています。

図21 画角測定時の様子と瞳相当の絞りの状態。1m先に方眼紙をおいて、それと画像を重ね合わせてサイズを測定しました、。絞りは背景と画像端を重ねる為にφ5mmとしています。


図22 撮影した結果。1m先で幅が272mmの画像が表示されていした。 画角は Atan(272/2/1000)  =15.5 度となります。

図22 撮影した結果。1m先で幅が272mmの画像が表示されていした。 画角は Atan(272/2/1000)  =15.5 度となります。

2. 接眼部出射面と眼球との間隔

間隔が20mmの時でも画面全体が見えました。図23aは測定の様子、図23bは実測した画像です。撮影レンズ前の追加絞りはφ2mmとしています。

図23a 画面表示範囲測定の状況。瞳相当の絞径はφ2mmでした。このサイズが大きいと画面全体が見える範囲は広がります。

図23a 画面表示範囲測定の状況。瞳相当の絞径はφ2mmでした。このサイズが大きいと画面全体が見える範囲は広がります。

図23b 絞径φ2mmで画面全体が見えました。

図23b 絞径φ2mmで画面全体が見えました。

3. 画像視認の余裕量

2.接眼部出射面と眼球との間隔の測定後に、左右にそれぞれ1mmずらして撮影したところ左右端の輝度は下がっていたものの、消えてはいませんでした。図24aは測定の様子で、図24b 24cは実測した画像です。ここでも撮影レンズ前の追加絞りはφ2mmとしています。ここの絞りを大きくすると画欠けの無い範囲(=余裕量)も増えます。人間の瞳径は明るさに依存して2〜7mmと変化しますので、今回の測定により、余裕量として2mmを保てる事が示されました。

図24a 測定の様子。図22aと同一ですが、カメラを左右に動かして測定します。

図24a 測定の様子。図22aと同一ですが、カメラを左右に動かして測定します。

図24b 左に1mm移動して撮影した写真

図24b 左に1mm移動して撮影した写真

図24c 右に1mm移動して撮影した写真、

図24c 右に1mm移動して撮影した写真

画面端が暗くなり始めていますが、ほぼ2mmの余裕を持っています。

4. 解像度

図25は非球面レンズを用いての実際の画像写真です。使用パターン、撮影条件は平凸2枚組の時と同一です。右下角でも2画素幅の線が分解しているものの、画面中央(図26)ではやや落ちています。非球面の加工精度か表示部側の平凸レンズとの軸合わせの精度の問題と考えられます。

図25 非球面レンズを用いた時の解像度の様子。右下角でも2画素の分解能を持っていました。但し、中心部については平凸レンズ2枚組の方が解像度が高くなっていました。

図25 非球面レンズを用いた時の解像度の様子。右下角でも2画素の分解能を持っていました。但し、中心部については平凸レンズ2枚組の方が解像度が高くなっていました。

図26 平凸レンズ2枚組の中心

図26 平凸レンズ2枚組の中心

5. 結果のまとめ

横方向画角15度への拡大と、当初の基本コンセプトに基づいたスペックとの両立が実現できました。小型高輝度・強い外光下でも自然な視野を確保し、虚像と現実世界の両方を同時にはっきりと見ることが可能です。

結論

導光板を用いたHMDでは30度を超える画角も実現されていますが、現場DX化における主要用途とも言える遠隔作業支援、情報表示等に用いる場合は横方向画角は15度程度が良いと考えられます。High efficiency, Outdoor use, Natural viewingのコンセプト及び性能を維持したままで、その画角15度を実現できました。但し、遠隔作業支援に絞った場合はNatural viewingを考慮するよりも使い勝手の良さを優先し、接眼部のサイズを必要最小限の大きさではなく、眼球と接眼部の位置ずれの許容量を増やす為に1〜2mm程度大きめが必要なります。又、画像位置についても1m程度の方が望ましいでしょう。それらの改善を加える事により作業支援へのスマートグラスの適用が広められる事が可能になるものと期待できます。







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岩井順一
岩井順一

テレパシージャパンの設立当初よりウェアラブルディスプレイにおける光学技術の発明・開発を行っている。 25年間、ソニーにてプロジェクタの光学系開発、設計に携わる。主に透過型液晶以外の変調器・方式によるプロジェクタの開発に従事。独創的な光学系を多数考案し、商品化に至っている。デジタルシネマ用プロジェクタの市場導入のカギとなった3Dレンズを考案(反射型液晶を用いたプロジェクタ1台で3D投影を可能とするレンズ)し、現在、3Dシネマとして普及している。

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